本事業では、タンパク質の自己組織化から細胞組織が自己増殖に至る過程を階層としてとらえ、その階層に対応するモジュールを構築することにより、タンパク質レベルから組み上げられた生体組織の人工的構築を目指しています。具体的にこの様なモジュールとして本事業では、
・蛋白質をクラスター化した蛋白モジュール、
・蛋白モジュールを高度集積化したサブセルラーモジュール、
・サブセルラーモジュール上で蛋白や細胞が機能性組織として機能するティッシュモジュール
を考えており、我々のグループでは、レーザーマニピュレーション技術を利用したサブセルラーモジュール、ティッシュモジュールの構築手法の開発およびその評価を主目的として研究を進めています。
サブセルラーモジュールを作製するにあたり、多種類のタンパク質を細胞と同程度の大きさ(数10 mm)で任意に配列する必要があります。しかし、既存のタンパク質配列方法では、この精度で多種のタンパク質を配列することは困難です。そこで我々は、フェムト秒レーザー技術を利用して、京都工繊大・森肇教授により作製された蛋白モジュールである多角体(蛋白質結晶の一種)を、この精度で配列する独自の手法を考案しました。
パターニングした蛋白質の上で、任意の細胞を培養することができれば、より付加価値の高いサブセルラーモジュールが作製できると考えられます。我々は、フェムト秒レーザー技術を利用して、蛋白質結晶のみならず、単一レベルの細胞をパターニングできる手法を考案しました。
従来、蛋白質の過飽和溶液の濃度、温度、pH等の環境を変化させることにより、蛋白質の結晶化を制御しようとされていますが、これらの結晶化は自然核発生により開始するため、結晶核発生を空間的に制御することは非常に困難でした。我々の考案したフェムト秒レーザーを利用した結晶化の方法では、レーザーの集光点で結晶核発生を高効率に誘起できるため、その他の手法と比べてその空間制御性に優れています。さらに、他の手法では結晶化しない蛋白質の結晶化にも成功しており、本手法は蛋白質のX線構造解析における結晶作製手法としてのみならず、サブセルラーモジュールへの展開に最も期待できる蛋白質の結晶化の制御方法です。例えば、多角体に包埋することの難しい蛋白質を本手法により結晶化し、さらには配列まで行なうことにより、サブセルラーモジュールの開発が躍進することを期待しています。