ナノ・マイクロの世界での微細加工・操作技術 
−ナノテクノロジーの苦悩−


 もし地球をわしづかみにできるくらいの巨人がいたとすると、ナノ・マイクロの世界の微細加工・操作技術とは、その巨人が私たちに料理を振うくらいの繊細な技術といえるでしょう。もちろんその巨人の指先だけでも日本列島より大きいでしょうから、その巨人にしてみれば、にんじんやたまねぎはおろか、東京タワーをつかむことすら難しいでしょう。もし、料理を作れたとして、それが美味しいかどうか分からなければ巨人も料理を満足に振る舞えないでしょう。私たちが、ナノ・マイクロの世界において、まさにこの巨人に似た苦悩をあじあわなければなりません。原子や分子、蛋白質を単純に一つずつ並べられてもナノテクノロジーとは言えません、それを私たちが見えたり使えたりするサイズに反映し、付加価値の高い物にしてこそ初めてナノ・マイクロの世界の微細加工・操作技術が達成されたと言えるでしょう。


光学実験装置の値段


 よく研究室の光学実験装置を案内すると、値段について聞かれるのですが、「光学部品一つ一つがパソコンくらいで、レーザー装置がフェラーリくらいで、一式合わせて土地付き一戸建てくらいの値段ですかねー」などと言うと驚かれます。光学素子は貴金属の塊で、レンズは紫外光でもよく透過する水晶(石英)、固体のレーザー媒体にはルビー、ガーネット、サファイアなどの宝石が使われています。これらの宝石の大きさは、数センチ以上あり、値段がはるのも無理はありません。しかし、宝石として価値があるのは天然物ですが、光学部品としては使われるのは不純物の混入が少ない人工品なので、盗んで質屋に持っていっても値段はつきません。鏡も、通常アルミ製のものを使いますが、用途に応じて金、銀の物を用います。また、これらの素子を支える機械部品も、工芸品のようなものです。機械工の職人さんが手作業で一つ一つ丁寧に作るので、一個が数万円するのも無理はありません。さらにこれらを組み合わせた装置となると、数十人の専門の研究開発者が数年かかって製造するので、その開発コストも半端ではありません。レーザー装置も量産化されれば一台あたりの開発コストも問題にならないでしょうが、その得意様が大学や研究所の物理・化学系研究室で、月に数台しか売れないようでは、そうもいきません。レーザーメーカーの人に「どうすればレーザー装置が安くなりますか?」と聞くと、「皆さんが我々を信じて、とにかくたくさん買って頂くことです。」と言われました。


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